校長の声『傘』
雨の日の卒業式。
講堂を出る卒業生の写真は建物の二階から撮られているから、色とりどりの傘しか見えない。(1)青空の下で「卒業した!」という嬉しさをカメラで撮ることは出来ないが、この写真は卒業生に相応しい姿を示している気がする。学校で友達と一緒に学んだことは、新しい道に踏み出す自分を守る傘となっていると実感できる時である。そして、友達と一緒に同じ教室、同じ先生に教えてもらったのに、それぞれ違う人間に成長してきたことの象徴は皆が持っている傘である。(無論、「準備万全」は過大評価であろう。傘の準備ができて「雨にも負けず」とは言えるが、強い風になると別な対策が必要である。)
雨と太陽の光から自分を守ってくださる傘の役割を別なイメージで示しているのは聖母マリアが広げるマント、袖のない外套である。(2)余裕があるから裾を広げてくださるという意見もあろうが、言うまでもなく、これは聖母に相応しい発想ではない。持っているマントは自分を守るためのものだと思わないで、多くの人を助けるために広げてあげたいという優しい心遣いが伝わってくる。
ドイツのカトリック聖歌には「マリア様、マントを広げてください」という歌がある。(3)心を一つにして聖母の保護を願う歌ではあるが、一緒に祈ってマントの下で守られているのは文化、言語、人種、教育がそれぞれ違う人間である。
三密を避けるために当面の間多少大きめの傘を共有することは「×」であるが、皆同じ防備対策という傘の下で集まって活動すれば、多様性に満ちた人間社会(そして自然界)を保つことが出来る。祈りだけで解決できる問題ではないが、心を一つにして祈ることは第一歩になるのではないか、と私は思うが。
(1) 南山高等学校女子部
(2) ドイツの神言会ザンクト・ヴェンデル修道院の聖堂のマリア絵。
(3) "Maria breit den Mantel aus"