校長の声『"The pen is mightier than the sword"』
人類の長い歴史を振り返ってみれば、武器と文具の力比べは「ペンは剣よりも強し」という、単なる希望的観測ではないと言えるであろう。何故かというと、人間の本当の強みは競争相手を腕力で押さえることではなく、真理を見極める理性で愛の輪を広げることにあるからである。剣の暴力に勝つペンの秘訣は恐れず真理を伝えるところにあるが、この真理の力の内密は何であろうか。聖書からの二つの言葉は参考になると思う。先ず旧約聖書の言葉。
「口には神をあがめる歌があり/手には両刃の剣を持つ。」(詩篇149編6節)
賛美歌を歌いながら、人を傷つけることは、いかがなものかという印象を受けるかもしれないが、「詩編」は(表現を少し変えながら)同じ事を2回並べた形で書かれた文学作品である。"祈りこそ我々人間を守る神の力となる"という意味であろう。この力をもう少し詳しく説明しているのは新約聖書からの次の箇所である。
「神の言葉は生きており、力を発揮し、どんな両刃の剣よりも鋭く、精神と霊、関節と骨髄とを切り離すほどに刺し通して、心の思いや考えを見分けることができるからです。」(ヘブライ人への手紙4章12節)
換言すれば、神の言葉は両刃の剣であって、自分の都合がいい目的に使える武器ではない。
昨年は宗教改革の500周年記念の年であったが、妹は宗教改革者ルーテルの面白い小立像を贈ってくれた。聖書の立派なドイツ語翻訳を成し遂げたルーテルのペンこそ「剣よりも強し」だと思って校長室に飾ってある。その直ぐ隣にバチカンのスイス衛兵の小立像が置いてある。ルーテルのペンはバチカンの矛(ほこ)よりも強かったかもしれないが、今二人は仲良く並んで、人の心を動かす神の力を表していると私は思う。